押印と捺印の違いとは?意味や契約書等での使い分け方を紹介!

2020年8月7日

普段からよく聞く「押印」と「捺印」という言葉は、しばしば同じニュアンスで使われます。

しかし、この2つの言葉には、意味や法的効力の違いがあるのです。この記事では、押印・捺印の違いや、それぞれの持つ法的な意味、また、ハンコを押す正しい位置などを解説します。

「押印」と「捺印」の違いとは?それぞれの意味を確認

書類などへ判を押す際に、押印(おういん)・捺印(なついん)という言葉を聞くことがあります。

押印も捺印も、「ハンコ(印鑑)を押す」という行為を表すことは共通していますが、実は厳密には意味が異なります。

「押印」とは、もともと「記名押印」という言葉です。
「記名押印」が省略されて「押印」と呼ばれるようになりました。そのため、意味としては「記名のある箇所にハンコを押すこと」を表します。また、詳しくは後述しますが、「記名」は自身の手ではサインを書かない場合に使われる言葉です。ここから転じて、「押印」はサインを書かない、何も記載されていない場所に判を押す場合にも用いられる言葉となりました。

一方で「捺印」とは、もともと「署名捺印」という言葉で、省略されて「捺印」と呼ばれるようになりました。「捺印」は「署名(自筆のサイン)のある箇所にハンコを押すこと」を意味します。

なお、一般的にハンコを指して使われることが多い「印鑑」という語も、実はもともとハンコ自体を意味する語ではありません。

ハンコの正式名称は「印章(いんしょう)」といい、ハンコを押したときに紙に残る跡は「印影(いんえい)」と呼ばれます。

そして「印鑑」の本来の意味は、「役所や金融機関などに届け出て登録された印影」のことです。すなわち「印鑑」とは、公的に認められたハンコである実印を指します。

押印・捺印と混同しがちな「調印」とは

押印・捺印ほどではないものの、この2つの言葉と同じような使われ方をするものに「調印(ちょういん)」があります。

「調印」は、国同士の条約や、会社間の経営に関わる協定や取引全般に関わる契約など、重要性の高い取り決めの際に使われる言葉です。
「より重要な取り決め」に使われることがポイントで、会社などで普段から取り交わされる単一の契約に関する書類などでは「調印」とは言わないため、注意しましょう。

また、日本国内の会社同士であれば契約書類にハンコを押すことが一般的ですが、いわゆる「ハンコ文化」は日本固有のものです。海外の企業とのやり取りや、国同士の「調印」の場合は、「調印」といっても署名で行われることがほとんどです。

参考:記名と署名の違い

先ほど「記名押印」「署名捺印」という言葉をご紹介しましたが、「記名」と「署名」もそれぞれ異なる意味を持ちます。

まず「記名」は、「手書き以外の方法で氏名を記入・表示すること」を意味します。つまり、ゴム印や社印、代筆、印刷などで記入された氏名な「記名」に当たります。また、これらにハンコを押す場合は「押印」となります。

一方で「署名」は、「本人が氏名を自署(サイン)すること」を意味します。本人が自筆で氏名を記入し、そこにハンコを押す場合のみが「署名捺印」といえます。

押印と捺印の法的効力の違いは?どう使い分ける?

ここまで、「押印」は記名押印の略、「捺印」は署名捺印の略で、それぞれ異なることをご紹介しました。それでは、法的効力において、この2つに違いはあるのでしょうか。

まず、自筆で氏名を書く「署名」は、筆跡鑑定により本人のサインであるかどうかが確認できるため、法律上の証拠能力があります。一方、自署以外で記された「記名」は、それだけでは証拠能力を持ちません。

ただし、商法第32条には「署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる」とあります。つまり、記名に加えて押印があれば、自筆の署名と同じ程度に信頼できるとみなされ、署名と同等の証拠能力を持つようになるのです。

なお、法的な根拠能力が高いものを左から順に挙げると、以下のようになります。

署名捺印>署名のみ>記名押印>記名のみ

法的効力

押印・捺印の正しい位置

押印や捺印が法的効力を十分に発揮するためには、ハンコを押す位置を把握しておくことが大切です。ハンコを押す正しい位置は、印鑑証明が必要かどうか、また、法人印であるかどうかによって異なります。

例えば、相続手続きや不動産の購入など、重要な契約では実印が用いられます。実印を用いる際には、それが本物であることを表す印鑑証明が必要になります。印が他の文字と被ってしまうと印鑑証明ができなくなってしまう可能性があるため、実印を押す場合は他の文字と被らないように注意しましょう。

逆に、印鑑証明が不要な契約(実印を用いない場合)で署名捺印・記名押印をする際は、印影の偽造や複製といった悪用を防ぐため、他の文字の上から少し被せるように押しましょう。

なお、ハンコを押すべき位置に丸印で「印」と記載されているなど、押す場所が決められているものは、所定の枠内にハンコを押せば問題ありません。また、複数の担当者が押印する必要のある書類などでは、より役職が高い人が左側になるので、その点にも注意しましょう。

そもそも押印や捺印は契約書に必要なの?

近年、テレワーク推進の影響などにより、ビジネス文書の電子化が進んできました。日本では、いわゆる「ハンコ文化」が根強く続いており、押印・捺印の制度がテレワーク推進の妨げとなってしまう例も起こっています。
こうした事態を受け、あらためて押印・捺印の必要性が議論されています。

2020年6月の内閣府・法務省・経済産業省の見解では、「私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。」「特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。」としています。つまり、本来は、押印・捺印がなくとも契約を成立させることが可能なのです。

また、政府は「テレワーク推進の観点からは、必ずしも本人による押印を得ることにこだわらず、不要な押印を省略したり、『重要な文書だからハンコが必要』と考える場合であっても押印以外の手段で代替したりすることが有意義であると考えられる。」とし、テレワークと両立する代替案を推奨しています。

押印の代替案としては、電子署名や電子認証サービス、電子印鑑の活用が挙げられるでしょう。しかし、借地借家法や宅建業法など、一部の法律では書面作成が義務付けられていることから、契約の種類によっては押印も不可欠とされ、電子化ができないといった問題も残されています。

請求書に押す印鑑についての記事もございますので、併せてご覧ください。

似た意味として捉えられることも多い「押印」「捺印」「調印」は、それぞれ異なる条件で使われる言葉であることを解説しました。重要な書類の手続きで慌てないためにも、それぞれの意味や法的効力の違い、ハンコを押す正しい位置を心得ておきましょう。

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